固定種野菜の販売戦略

「飯能に来れば固定種野菜が食べられる」ということで飯能を盛り上げて行こう、という趣旨の話し合いがありました。一応、固定種野菜と書きましたが、野菜には限定せず、広く固定種の作物を指すものとします。

キャッチーなネーミング

「固定種」といっても、よくわからないよね、なんかもっとキャッチーな名前はないものか、という話になりました。

昔野菜

農八会がエコツアーなので使っている「昔野菜」というフレーズはかなりいい線いっていると思います。もちろん、固定種がすべて昔ながらの野菜というわけではありませんが、細かいことを言い始めたらきりがないので。

なお、小島農園では、種を摂り続けていくなかで、元の品種とは違う形質のものがでてきても、おいしければそのまま栽培、販売していくと思います。種屋ではないので、品種が固定されていることにはこだわりません。それでも、「固定種」として販売します(おそらく)。

「昔野菜」という名前で売って、一般の消費者が食べたいと思うか、という意見も出ました。「昔の野菜」を食べてみたい、と小島農園の夏野菜の苗を買っていったお客様がいらっしゃいましたが、それがどれくらい普遍的か、という話ですね。

売り文句

固定種とはこれこれで普通スーパーで売っているのは F1種で、とかそういう話は 1 割のうんちく好きにはいいけれど、残り 9 割の人にアプローチするには、もっとわかりやすい違いを出して売った方がいい、という話が出ました。
たとえば、「おいしい」とか「栄養価が高い、機能性成分が多い」とか、どうでしょう、と。

おいしさで売るのは?

おいしい、で売るのはなかなか微妙だと思います。おいしさは主観に左右されるので、人それぞれです。一般的な傾向としては、固定種野菜は野菜本来の味(クセとか)が強いと考えられます。化学調味料の味に慣らされ、とにかく甘ければおいしい、という観点で育種された野菜をおいしいと感じる味覚の持ち主には、固定種野菜はおいしいと思わないでしょう。
創作料理のお店の方が、固定種野菜をお客さんに出すとき、「固定種という安心安全なまずい野菜ですよ」と言っている、という話は新鮮でした。そう聞かされて実際食べてみたお客さんは「おいしいじゃないか」という反応を示すことが多いそうです。

栄養価、機能性で売るのは?

昔の野菜と今の野菜を比べて、こんなに栄養価が違うんですよ、とグラフを見せたら、一般消費者はそういうのに弱いから売れるんではないか、という話がでました。「日本食品標準成分表」の初版(1950 年)と最新の版(五訂? 2005 年?)とを比べればそういうグラフが作れるかもしれません。就農直後に、機能性に特化した野菜を作ったらいいんじゃないか、というアドバイスをいただいたことも思いだしました。
が、そういう売りかたには、私は賛成できません。
まず、食物を還元的に分解して考え、今わかっている成分でだけ分析してあれを食べればいい、これを食べればいい、という考えを好みません。この考えを延長していけば、野菜なんかは適当なものを食べて、栄養はサプリメントで摂ればいいや、という発想に直接つながります。基本的には、地のもの、旬のものを、昔からの調理方法で、余すところなく食べていれば、それがいちばんいいのだと考えます。それは我々の祖先の壮大な人体実験の結果であり、軽々にしていいものではありません。
次に、今や農産物も栄養素や機能性成分を付加した高付加価値商品として売る時代になっています。消費者受けが良く、高く売れるということになれば、F1 種でもそのような品種をどんどん開発するようになるでしょう。そうなった場合、固定種の勝ち目はないでしょう。

話は逸れますが

野菜がそのものらしい味を失い、栄養価が下がってきた、というのは別に F1種の時代になってから、とは私は思いません。野草が野菜として栽培される過程で、その後の(固定種の)品種改良の過程で、それらの変化が起きてきたと考えます。概して野草はクセが強く、薬効が強いもの植物には野菜よりも野草が多い、というのがその証左と考えています。

では、どう売るのか

私個人としては、固定種を販売するのに、一行で済む簡単な説明では無理だと考えています(現在のところ)。固定種というものを理解して日常的に食べてもらうのは、消費者の価値観そのものを変えるような大変な作業なので、あまり賢明ではない、むしろ、高付加価値の農産物として「ちょっとしたぜいたく」食材として販売する方が現実的だ、という先輩農家のお話もあります。しかし、現在は、苦労して啓蒙する道を歩みたいと考えています。理想的すぎるかもしれませんが。
小島農園での販売はまあそれでいいとして、「飯能に来れば固定種野菜が食べられる」という売り出し方をする場合にはそれでは困りますね。

カテゴリー: 一農夫の戯れ言
4 comments on “固定種野菜の販売戦略
  1. いじま より:

    こんにちは。

    >野菜がそのものらしい味を失い、栄養価が下がってきた、というのは別に F1種の時代になってから、とは私は思いません。野草が野菜として栽培される過程で、その後の(固定種の)品種改良の過程で、それらの変化が起きてきたと考えます。

    F1種の栄養価は固定種に比べると9割以下、というお話をよく耳にします。また雄性不稔種は食べると精子減少を誘発する、というようなお話も耳にします。本当にそうなのか?と思って信憑性のある文献を探してみましたが、F1種批判のものばかりです。これでは比較検討することも出来ず、戸惑うばかりです。

    御社の農園では固有種のみを取り扱っているそうですが、やはりそういった事が理由なのでしょうか。

  2. たけさん より:

    いじま様

    コメントありがとうございます。

    まずは、以下、私たけさんの個人の考えであることをお断りしておきます。代表のなおちゃんは、また別の想いを持っているかもしれません。小島農園としての現時点での見解は、トップページに記述したとおりです。加えて言うなら、基本的には、野菜を育てて、種を採ってまた蒔いて、というごく当たり前の農がしたいだけです。現状、大規模栽培を行う農家では難しいのかもしれませんが、うちの農園くらいの規模なら、固定種に限った生産が可能ではないかと思います。

    F1種の栄養価についてですが、F1 の技術自体が栄養価の低下に寄与しているとは考えにくいと思います。固定種の育種も F1種の育種も、栄養価に着目して行われては来なかったと思います。F1 全盛の時代になり、主に流通面を重視した(および大規模栽培の効率化を重視した)品種の開発に力がそそがれ、栄養価はなおざりにされてきたと思われます。固定種野菜は、品種開発の主流が F1種に移ったのであまり品種改良が進まず、結果的に栄養価の低下があまり起こらなかったのかもしれません。F1種では雑種強勢を期待して遠い系統、たとえば食味は落ちるが生育の良い品種をかけたりするので、栄養価の低下が起こりやすいということかもしれません。
    済みません、信憑性のある文献をお探しの方に、信憑性のまったくない私説を展開してしまいました。
    栄養価について信憑性のある資料としては、日本食品標準成分表がいいかもしれません。古い版と最新の版を比べることである程度わかるかもしれないと考えています。それぞれの調査対象の品種が F1種なのか固定種なのかはわかりませんが、一般的に流通している品種での調査かと思います(未確認)。

    なお、先にも書きましたように、F1種の栄養価が低いとしても、それは栄養価に着目して育種されてこなかったからです。今は、農業生産物にも栄養価や機能性成分を付加して付加価値をつけて販売する時代になってきていると思います。そうなった場合、F1種のほうが栄養価が高い、という現象が生じる可能性は少なくないと思います。

    雄性不稔種野菜と人間の精子減少については、いずれもミトコンドリア異常が原因とされていることから、因果関係を想定する方もいるようです。私は、定説の代謝モデルでは説明がつかないので、「雄性不稔種精子減少原因説」には懐疑的です。ですが、生物が実際に行っている代謝現象が、定説の代謝モデルだけに限定される、という考え方にも懐疑的です。
    済みません、余計戸惑わせてしまうかもしれません。

    「一農夫の戯れ言」なので、ご容赦ください。

    • いじま より:

      ご丁寧な解説、ありがとうございます。自分が見聞きした中では、かなり参考になるものだと思います。(センセーショナルな疑似科学的なものが多くて、困っていました。)提示いただいた日本食品標準成分表を自分でも比較検討してみたいと思います。

      • たけさん より:

        食品成分表に基づいた F1種と固定種の栄養価の比較、というのは興味がありますが、栄養価の高さを固定種野菜の売りにするつもりがないので、ちょっと消極的になっています。

        似非科学(とオカルトと科学)については思うところがあり、そのうちこのブログにも記事を投稿しようと思います。

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