新規就農1年目の方へのアドバイス

小島農園の近くで新規就農1,2年の方が悩んでいることが重なりました。ある新規就農者の問いへの、丈ちゃんの回答が素晴らしかったので、他の新規就農者の参考になるのではとブログにアップすることにしました。

メールで質問をいただいた回答になっています。病虫害などで今年の作物がうまく育たなかったことと、JAの直売所に置いても売るのが難しかったことが書かれていました。

丈ちゃんの返事

 言うまでもなくご理解されているかと思いますが、栽培と販売は両輪です。
片方だけ回っていてもうまくいきません。
我々も就農初期や初めて作る作物などについては、どちらかというと栽培を優先してやり、できた作物に急かされて必死に営業をかけて販売先を確保してきた感があります。
ただし、栽培にこだわる以上、売る先もそのこだわりが正当に評価されるところを開発しました。

 Yさんの栽培に関する個々の「失敗」ですが、自然栽培の歴が浅ければあたりまえ、という感じがします。
生産者としての技術的要素もそうですが、自然栽培は周辺環境も含めた圃場の影響を強く受けますので、畑や種を知りつつ、生産者自身の性向を勘案していく必要があります。
無肥料自然栽培勉強会でみなさんのお話を伺うと、Yさんが経験されたくらいの「失敗」はよくあることです。

 仮に栽培を優先して、翌年上手に作れるようになったとしても、三年目の壁、という話もあります。すなわち、自然栽培に転換して、最初の年、次の年は意外とよくできたけれど、三年目に収量ががくんと落ちることがよくある、と言われています。
ひとつの要因は残肥が切れるから、すなわち、自然栽培に転換する前までに施用されていた肥料分が、最初の 2年は効いていてそこそこできたけれど、それが切れた三年目に収量が落ちる、とされています。
残肥に限らず、自然栽培に適した動的平衡状態の畑になるまでには十年以上かかると考えられますので、一・二年やって栽培が上手になった、と感じても、同じことを続けただけでは品質・収量の伸びはありません。

 何が言いたいかと申しますと、たとえ販売に力を割かず、「満足のいくものを作れるようになるまで栽培を優先する」としても、「満足のいくもの」を作れるようになるには五年以上かかるかもしれない、ということです。

 販売に関しては、ごくごくあたりまえですが、ニーズがないところに商品を提供しても売れません。
Yさんの野菜が JA の直売で売れない、出せない、というのは、そういうニーズがないので当然と言えます。
JA の直売所で自然栽培の野菜を出すのは、けっして間違いとは考えませんが、相応の技術と経営的体力が必要だと思います。
いずれにしろ、ニーズがなければ売れません。

 では、どうするか。
方向としては大きく二つ。ニーズのあるところに販売するか、販売しているところにニーズを作り出すか、です。
前者は、オーガニックを扱っている小売店に卸したり、オーガニックマーケットに出店したり、ということです。我々も東飯能の「有機の里」さんに卸したり、各種マーケットに出店したりして、売上を出すとともに、名前を売りました。
後者は、JA 直売所をそのまま利用するのであれば、他の生産者が作っていないもの、たとえば赤い大根やカブとか、目を引くものを出す、とか。他の生産者が作っていなければ値は自分でコントロールしやすいでしょうし、味の面で卓越していれば、そしてそれを続けていれば、名前で買ってくれるお客さまがでてきます。
どちらの方向でも、味という品質で名前を売っていく、リピーターを増やしていく、というのが重要かと思います。

 品質で買ってくださる固定客が付けば、売上がそこそこでも栽培に対するモチベーションが上がります。
普通に直売所に出して、売れ残りを回収して破棄して、とやっていると、気持ちが萎えます。
ろくに出荷できなくて売れ残っても、気にしない胆力があるなら直売所での販売を続けてもいいですが、農業を長く続けるのであればメンタルヘルス面は重視したほうがいいです。

 奥さまが営業するといいのではないか、という話も、前にさせていただきましたが、考えていたのは CSA (Comunity Supported
Agriculture) 的な営農スタイルです。すなわち、畑に来れる範囲の人達でコミュニティを形成し、その生産責任者がYさんになる、という形の営農です。
自分たちの理念を語り、それに共鳴してくれる顧客を掴み、一緒に成長していく、という感じです。
そういうお客さまは、形が悪かろうが、多少虫がいようが、味や栄養面の品質が高ければ買ってくれる顧客になります。
価格で買ってくれる 10 人のお客さんより、理念と品質で買ってくれる一人のお客さんのほうが大事です。そういうお客さんを裏切らない品質を保ち続ければ、クチコミで勝手にお客さんが増えていきます。

 我々は、「畑に来れる範囲の子育て家庭」にターゲットを絞り、販売先の開発をしました。親戚・知人への営業はしませんでした。

 そうなってくると、いちばん大事なのは、「なぜ自然栽培をするのか」という根本の理念の部分です。
「自然栽培をおこなっていくと決めた」とおっしゃっていますが、じゃあそもそもそれはなぜなのか、ということです。
そこをしっかり言語化して、ご夫婦でも確認しておくことが肝要かと思います。
我々にとって自然栽培は、「畑や作物、耕作者、そして環境への負荷の少ない循環する営農をしたい」「心と身体が作られていく過程にある子どもたちに健やかなる命を食してほしい」という目的を達成するための手段にすぎません。

 若輩が偉そうに語って申し訳ありません。
ご容赦ください。

カテゴリー: 縁農・研修

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