「大草原の小さな家」は、アメリカの開拓時代を過ごした著者ローラ・インガルス・ワイルダーが自分のこどもの頃のことを書いたものです。幼少期から大人になるまで、テレビ放映もされて、見たことがある人も多いではないでしょうか?私はちらっと見たくらい。
こどもの本を借りに飯能市立こども図書館に行って、このタイトルを見て読んでみることにしました。
全10作のうち、前半5作が福音館書店から出版されています。ここまで読みました。
大きな森の小さな家
大草原の小さな家
プラム・クリークの土手で
シルバー・レイクの岸辺で
農場の少年
著者のローラ・インガルス・ワイルダーの言葉
・・・自分はなんとすばらしい子ども時代を送ったのだろうと思いました。わたしは開拓地帯のすべてを見てきたのです。森、大草原のインディアンの土地、開拓地帯の町、未開の、まだ人がいない土地での鉄道敷設、入植して開拓農地を申請しようとやってくる農民たち、わたしは、それらのすべてをこの目で見て、生きてきたのでした。開拓地帯に次々と起こることを見てきました・・・・わたしの子ども時代には、今のようなモダンで便利なものは何もありませんでしたが、現在の子どもたちのそれよりももっと豊かで、楽しかったと思うのです
印象に残った3冊を紹介します。特に3つめの「農場の少年」では、ネタバレがいっぱいありますのでご注意ください。
大きな森の小さな家
お父さん、お母さん、8歳の姉メアリー、5歳のローラ、そして2歳の妹キャリーの5人で、ウィスコンシン州の森で暮らします。まず、なんでも自分たちで作りだすことに驚きます。じゃがいも、カブ、小麦を栽培するのはもちろん、砂糖カエデの木からはメープルシュガーを作り、冬に備えて狩りをして、次々と燻製にしたり塩漬けにして備蓄して、飼っていた豚も冬が来る前に食料にするために殺して捌きます。鉄砲の玉も火薬から作ります。小麦を脱穀するときには、脱穀屋が来て6頭の馬で機械を回します。これが本当の「6馬力だ!」と感動して、近くにいた長男に読ませました。
冬の夜はお楽しみがあります。お父さんがバイオリンで歌を歌ってくれるのです。お話も聞かせてくれます。夏は畑仕事に忙しくくたくたになるので、そういう時間がありません。
日曜日はキリスト教の安息日で、仕事はしない、遊んでも行けない日。じっとしているのが大変そうです。そんな様子も興味深かったです。
何より、家族5人だけで楽しく毎日暮らしているというのが驚きでした。少し離れたところにおじいちゃんやおじさんがいるので、年に1度くらいは会うようですが、普段は家族だけで暮らして、他の人に出会いません。日本では、地域とつながり、会社があり、保育園があり、小学校があり、社会とつながっているのが当たり前。家族はどちらかというと一緒にいる時間が少ないです。夫婦は別のところで働き、すれ違いで一日会わない人も少なくありません。農業を始めてから、家族は一緒にいる時間が長いからこそ、一緒に協力しないと立ち行かないからこそ、お互いを尊重して、励まして、ときに対立もするけれど理解が深まると考えるようになりました。その答えのようなものを、インガルス家を見て思いました。
大草原の小さな家
森に住む人が増えたので、インガルス家は南のオクラホマ州のインディアンテリトリーに幌馬車で旅立つことになりました。ここに住もうと決めた場所に、お父さんが近くに住む人と協力して丸太小屋を作ります。木を伐り出し、削り、少しずつ家を建てるのです。お母さんのために暖炉も作ります。なんでも自分で作ってしまうお父さんに驚きます。
草原である日火事が起きました。家の周りの草を集めて、火に向かって迎え火を放つこと、水を含ませた麻袋で飛び火した火をお父さんとお母さんが必死で叩いたこと。ハラハラドキドキしながら読み進めました。無事火が消えてから、また長男に「すごいよー、草原で火事が起きて家が燃えそうになったんだよ。どうしたと思う?」って読ませちゃいました。
インディアンが悪者として登場します。いろいろ怖い目にあうこともありました。開拓者からみたネイティブアメリカンはこうだったのかと思いました。家を建てた場所はインディアン居住区に決まったので、1年後にまた移住することになりました。
農場の少年
この本だけ、ローラの夫のアルマンゾ・ワイルダーが9歳のときの話です。ニューヨーク北部の農場で両親と4人の姉兄弟で暮らしています。お兄さんのローヤルが13歳、姉のイライザ・ジェインが12歳、アリスが10歳です。
農場では、家族6人で毎日たくさんの仕事をこなします。物語はとても寒い冬から始まります。夏にアイスクリームなどを作るために、池の氷を蔵にぎっしり保管します。氷蔵の仕事では、とても寒い日に池の氷の厚さが50㎝になっていて、それを手伝ってくれるフランス人の2人の男と切り出します。アルマンゾと兄のローヤルは、氷蔵で氷の間におがくずを詰める仕事をします。次々と運び込まれてくる氷に休みなくおがくずを詰め突き固める仕事を、昼ご飯を挟んでずっと、3日間働き続けるのでした。9歳と13歳のこどもが、文句も言わずにこんなに働けるなんて驚きました。うちの子どもたちは、畑ではほとんど遊んでいます。お手伝いしてくれても1時間くらいで飽きてしまいます。好きな仕事なら一日中手伝ってくれることもあるのですが。ワイルダー家の暮らしとうちの暮らしとの違いを考えてしまいます。他にも、ジャガイモを植えるのに3日間、夏の終わりには干し草作りを3週間、そして小麦、カラス麦、いんげん豆、トウモロコシと次々と収穫していきます。それぞれ膨大な量です。家畜の飼料にもなります。晩秋になると、りんご、かぼちゃ、ビーツ、大カブ、玉ねぎ、人参、じゃがいも。人参は5.4tも採れたそう。牧草、小麦、カラス麦、ジャガイモはフランス人の二人に手伝ってもらいました。それにしてもすごい量の農作物。じゃがいもは春まで保管して、春先に売って大儲けすることがあります。お母さんが作ったバターもバターの仲買人が買いに来ます。夏の終わりの取入れのとき、お母さんは次々と保存食品を作っていきます。驚くほどたくさんの仕事を家族とフランス人の2人でやりとげます。
独立記念日のお金の話も印象的でした。いとこのフランクが5セントのレモネードを買って飲んでいます。アルマンゾにお父さんから5セントもらって飲めるか?ってけしかけます。アルマンゾは恐る恐るお父さんに5セントくれる?と聞きました。お父さんは50セント銀貨を取り出したんです。そしてジャガイモをどう育てるかアルマンゾに確認する。春の畑の耕耘からはじまり、植え付け、2回中耕して、取り入れ、保管しているものの中から腐ったものがあったら取り出す。こうして一生懸命育てたジャガイモが14kgで50セント。50セントの労働の重みを伝えてから、それをアルマンゾにくれた。さらにお父さんは言う。
「それはおまえのものだ」父さんはいう。「もしほしければ、産まれたての豚の子が買える。それを育てて、何頭もの豚を産ませ、それを一頭4,5ドルに売れるまで大きくすることもできる。それとも、それを全部レモネードと変えて、みんな飲んじまうこともできる。それはおまえの金だ。好きなように使っていいよ」
アルマンゾは赤ちゃん豚を飼うことにしたそうです。
アルマンゾは、学校で勉強するよりも農場で働くことが好きです。夏のある日は人参の草取り優先で、学校を休むことができました。草取りをわざとのんびりやって、学校に行くのを遅らせたのが微笑ましかったです。学校が好きじゃない長男に似ています。アルマンゾは農場の中でも馬が大好きです。スターライトという仔馬の様子がよく描写されます。でも、アルマンゾはスターライトに近づいてはいけないんです。べスとビューティという熟練の馬は、農作業でアルマンゾが使います。トラクターの代わりに馬で畑を耕します。春に草の芽が伸びたのを、馬でハローをかけるのはアルマンゾの仕事です。これも驚きます。一日中畑を行ったりきたりして、草の芽を殺します。ベスとビューティは慣れているので、勝手に動いてくれるそうです。
アルマンゾは、9歳の誕生日に2頭の子牛スターとブライトを馴らすための「くびき」をもらった。そしてお父さんと一緒に子牛の馴らしをはじめます。1年後の冬になると、丸太をそりに乗せ、丸太運びをするんです。始めのうちはいろいろ失敗もするけれど、少しずつ上達していく様子。自分で考えて解決していく様子、つい、10歳の長男に似ているなって思いながら読みます。
夏の1週間、両親が親戚の家に出かけた話も面白いです。こどもたちが好き勝ってします。面白くって、我が子たちにも読み聞かせたら、みんなで大笑い。
物語の最後、馬車作り職人パドックさんが、アルマンゾに見習いにこないかと誘う話の結末に感動しました。
アルマンゾは、どう答えていいか分からなかった。自分の意見を言うことなど、いままではゆるされないことだったのだから。父さんのいうとおりに、なんでもしなければならなかったのだ。
「まあ、よく考えてみるんだな」父さんは言う。「そして、自分で決めてほしいんだよ。パドックのところに行けば、楽な暮らしができる、考えようによっては。ひどい天気に、おもてへ出て働かないでもすむ。寒い冬の夜にも、ベットでぬくぬくと寝ていられる。育ちざかりの家畜が凍えはしないか、なんて心配することはいらないんだから。降ろうと照ろうと、雨だろうが雪だろうが、いつも屋根の下にいられるんだ。壁に囲まれた暮らしだから。それに、食べるものにも着るものにも不自由はないし、銀行には金がたまっていくだろうしね」
「ジェイムズ!」母さんがたしなめた。
「だが、事実そのとおりだよ。それはみとめなけりゃならん」父さんは答えた。「だが、アルマンゾ、いいことばかりでもない。こういうこともあるんだ。町では、何もかも他人にたよらなければならない。手に入れるものは、何もかも他人だみなのだ。農夫は、自分自身、そして土地と天候だけをたのみに生きていける。自分の口に入れるものは自分で育て、着るものも自分でとり、自分の土地から切ってきた薪であたたまる。仕事はらくじゃない。だが、自分の思いのままに働ける。誰にも指図はうけずにな。農場では、お前は自由で自分の思いのままに働ける。誰にも指図はうけずにな。農場では、おまえは自由で自分のおもいどおりに生きていけるんだよ、アルマンゾ」
この答えに、アルマンゾは「ぼくの望みは子馬なの」と答える。手に入れた200ドルで自分の子馬を買いたいと。父さんは、農場を選んだ息子によろこんで、今まで触ることも許さなかったスターライトをアルマンゾにくれたのでした。わが子たちは、将来どんな選択をするのだろう?って思いながら読んでしまいました。
アメリカの開拓者の暮らしと、日本の農家とはずいぶん暮らしが違いますが、お父さんの言葉と似ているところがあります。農家には自由があります。自分で何を作るか?どう生きるか?決めることができます。
自分で自給できる喜び、家族で一緒に過ごせる歓び、やっぱり農家はいいなって思いました。
蛇足なんですが、農場におけるこどもの在り方についても思うところがありました。今は、家庭でも保育園でも、こどもは遊ぶことが仕事になっています。小学校に入ってからは、勉強することが仕事。塾や宿題を含めると、小学校からは自分の時間もほとんどなくなります。
高度経済成長がはじまるまでは、親と一緒に一生懸命家業を手伝っていた人が多かったはず。そうしなければ生きて行けなかった。それが当たり前だった。5歳くらいから、こどもにできる仕事はいっぱいある。今は、他の子どもたちが遊んでいる中で、うちの子たちだけ必死に働かせることは難しい。楽しんでできる分だけ手伝ってもらってる。それは、正しいこどもの在り方なのか?
こどもの頃に農作業を手伝っていたという方達と農作業をすると、仕事の早いこと、的確なこと。知恵もあり、動きは体にしみついているようです。それは、とても大切なことだと思います。
ワイルダー家は、こどもが意見をいう機会がなく、親の言うことに従うのみだったのも、必死で農場で働いてすべてを自給するためには必要なルールだったのかなと思いました。いっぱい働くけど、食事は毎度ごちそうで、こどもたちは幸せだったように思えます。
うちの子どもたちは、どう育てるか?将来どうなるのか?本を読んで、いろいろ考えました。
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