化学物質過敏症 思いのほか身近な環境問題 書き起こし

1997年8月に当時の厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班が発行したパンフレット「化学物質過敏症 思いのほか身近な環境問題」があります。

これに先だって同年3月には化学物質過敏症に関する研究報告書が作られたそうです。
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/1251

パンフレットの字が読みにくいので、書き起こしました。画像は似たものを再製しました。

はじめに

化学物質過敏症という言葉が本邦に紹介されて数年になり、やっとこの言葉も市民権を得てきました。しかし概念がつかみづらく、まだ聞きなれない人も多いかと思います。病名や定義も完全には決まっておらず、国際化学物質安全性計画会議では「本態性環境非寛容」と呼ぶことを提唱しています。しかし、名称はともかく、従来の中毒という概念からは考えられないほど微量の物質で、アレルギー様の反応が起こり、様々な症状を来す疾患が存在する可能性は否定できません。アメリカ合衆国やカナダでの調査では国民の一割が化学物質過敏症に罹患しているとも言われています。
そこで、この病気について正しい知識を身につけていただき、診断や治療に役立てていただきたいと思います。

厚生省長期慢性疾患総合研究事業アレルギー研究班 石川哲(北里大学医学部長)

Contents 目次

化学物質過敏症とは
症状
原因物質
診断
予防と治療

化学物質過敏症とは

化学物質過敏症は過敏という名が示すように、ごく少量の物質にでも過敏に反応する点ではアレルギー疾患に似ています。最初にある程度の量の物質に曝露されると、アレルギー疾患でいう”感作”とい同じ様な状態となり、二度目に同じ物質に少量でも曝露されると過敏症状を来します。時には最初に曝露された物質と二度目に曝露された物質が異なる場合もあり、これは多種化学物質過敏症と呼ばれます。

一度目の曝露で身体が何に対しても過敏な状態となっているためと考えられますが、一般のアレルギー疾患の花粉症でも杉がダメな人はマツもダメ、カモガヤもブタクサもだめというのに似ているかもしれません。

さらに化学物質過敏症はこのようなアレルギー疾患様の性格だけでなく、低濃度の化学物質に反復曝露されていると体内に蓄積し慢性的な症状を来すという中毒性疾患に近い性格も兼ね備えています。

化学物質過敏症は未解明の部分が多い疾患ですが、このようにアレルギー性と中毒性の両方にまたがる疾患、あるいはアレルギー反応と急性・慢性中毒の症状が複雑に絡み合っている疾患であると考えています。

症状

この疾患には、頭痛、全身の倦怠感、不眠、便秘、同期など特徴のない症状が多いのです。

特に軽度の場合、身体の疲れや軽い風邪、また女性であれば更年期障害などとの鑑別が難しい場合が多いようです。患者さん自身が仕事の疲れや夏風邪と思って医師の診察を受けなかったり、病院を受診しても化学物質過敏症を念頭に置かない通り一編の診察では見落とされてしまいます。

このため最初の診断というステップでつまずき、この疾患の治療を困難にしています。

医療関係者のみならず一般の人にも化学物質過敏症の概念を理解してもらい、ひょっとするとそうかもしれないという疑いをもつことや、可能性を念頭に置いての診療が早期発見に重要であると思います。

原因物質

原則的にはアレルギー疾患同様、その患者さんにとって合わないものであれば何でも原因物質になる可能性があり、世の中の物質すべてといっても過言ではありません。

ただ図のような物質が頻度的に原因物質となる可能性が高く、意外と日常生活の中で身近に存在し、意識せずに接触している可能性が高いと考えてよいと思います。

原因物質の究明において先入観を持つことはよくありませんが、これらを参考に問診を通じて患者さんから疑わしい物質を聞き出す必要があります。

診断

ほかの慢性疾患が除外されることが大前提

化学物質過敏症の診断基準
A.主症状

  1. 持続あるい反復する頭痛
  2. 筋肉痛あるいは筋肉の不快感
  3. 持続する倦怠感、疲労感
  4. 関節痛

B.副症状

  1. 咽頭痛
  2. 微熱
  3. 下痢・腹痛・便秘
  4. 羞明(しゅうめい)、一過性の暗点
  5. 集中力・思考力の低下、健忘
  6. 興奮、精神不安定、不眠
  7. 皮膚のかゆみ、感覚異常
  8. 月経過多などの異常

C.検査所見

  1. 副交感神経刺激型の瞳孔異常
  2. 視覚空間周波数特性の明らかな閾値低下
  3. 眼球運動の典型的な異常
  4. SPECTによる大脳皮質の明らかな機能低下
  5. 誘発試験の陽性反応

次の2つのどちらかで診断される
1.主症状2項目+副症状4項目
2.主症状1項目+副症状6項目+検査所見2項目

先に述べたように症状や検査所見に特徴的なものがないため、診断は難しいことが多いのです。

まず、問診を詳細に行わなければなりません。これは通常の疾患でも重要ですが、化学物質過敏症が疑われる場合は、問診が鍵と言っても過言ではありません。患者さん本人がそれと気づかず原因物質に接触していることも多いためです。

出生地に始まり、このときの両親の稼業、転移歴、各自宅家屋の状況、新築かどうか、リフォームの時期、建材の種類、各自宅周囲の環境、殺虫剤、有機溶剤などの化学薬品の使用状況、職歴、各職場の環境、趣味・嗜好などかなり突っ込んだ問診が必要になります。

事前によく患者さんに化学物質過敏症の説明をして、こういった問診の重要性を納得してもらう必要があるでしょう。

次に他覚的に身体状況を把握するために検査を行います。化学物質過敏症では自律神経系のバランスを崩すことが多いため、自律神経の制御を受けている瞳孔対光反応や眼調節系の検査が参考になり、また中枢障害を検出するために視覚空間周波数特性、眼球運動検査、SPECT(single photon emission computed tomography )による脳血流量、脳機能の検査も重要です。

さらに最終的に原因物質を特定するために、皮内反応や負荷検査が必要となります。疑わしい物質が液体にできる場合は皮内反応で、気体の場合は電話ボックスのような観察室の中に注入し患者さんの反応、症状の出現によって判断します。

二重盲検法で負荷を行うときは、患者さんの自覚症状も診断の助けになります。

予防と治療

どのような疾患も直接の原因だけでは発症しません。直接の原因、患者さんの生まれつきの訴因、健康状態の悪化、悪化印紙、不良な外的環境などの悪い要員の総量が、患者さんの抵抗力の容量を超えてはじめて症状が出現し、病気になります。

従って一つ一つの要因を完全に除去できなくとも、すべての因子の総量が患者さんの抵抗力の容量を超えなければ病気にならずに済むわけです。化学物質過敏症のようにその原因物質を完全に取り除くことができないような疾患では、この方針に限って予防、治療を行うのがよいでしょう。

まず完全でなくてもよいですから、できるだけ接触する原因物質の量を少なくします。次に同様に悪化因子をできるだけ除去します。悪化因子は原因物質になりうるほかの化学物質であることが多いのです。

それと同時に適切な食事をし、適度の休息・睡眠をとり、毎日適量の運動をし、精神的なストレスを避けて健康状態をベストに保つようにします。これだけで症状が軽快したり、発症を予防できる場合が多いのですが、改善しない場合は解毒のために運動療法、温泉療法、サウナ療法などを行い、さらに必要なら解毒剤やビタミン剤の大量療法を行います。

また原因物質の投与による中和法が必要になることもあります。中和法とは、ある患者さんに、ある原因物質の症状に対して適度な量の原因物質を投与すると、症状を軽減あるいは消去できるという治療です。二日酔いに対して迎え酒をするようなものと考えてください。投与量は原因物質の検査同様、皮内反応の所見、症状によって決められます。
しかしできれば薬などを使わずに、生活や環境の改善のみで治療することを目標としたいものです。

広い視野を持って

化学物質過敏症は、抗生物質を投与して治療するような疾患や外科的手術で病巣を切り取るような病気とはもはや違った考え方、見方を必要とする疾患群です。たとえば原因物質を避けるにも自宅は完璧でも隣家で殺虫剤が撒かれては曝露されてしまいます。自宅内の安全からはじめ、町内の環境整備、市町村ぐるみの環境改善、国による適切な指導、地球規模で環境を考えることが必要になってきます。この疾患を考えるには、広い視野をもって環境問題を見据えなければならないと思います。

カテゴリー: 化学物質過敏症

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

*