お茶畑のあとすぐに自然栽培は難しい カルシウムが欠乏している畑

埼玉県飯能市には、お茶畑がたくさんあります。

色は静岡 香りは宇治よ 味は狭山でとどめさす

こんな言葉があるほど、狭山茶のおいしさは有名です。飯能市の精明地区は、お茶とお蚕さん(桑)が主力作物だったそうです。私たちが2013年に農業を始めたころには、茶畑や桑畑をつぶして、年に数回耕耘してきれいにしている、または除草剤を播いて草管理をしている畑がいくつもありました。その後も、大きなトラクターで茶畑をつぶす作業をたくさん見て、茶畑が少しずつなくなっています。

飯能市では、農業を始めるときに茶畑を借りる機会が多いです。
そして、元茶畑では無施肥でアブラナ科が育たない

ということが分かったので自然栽培を志す仲間と情報共有をしたいと思いました。

小島農園で借りた茶畑

小島農園では、今まで大小5か所の茶畑を借りました。
2015年 ヤギ2.5反
2018年 ウシ2.5反(上段、中段、下段、3枚に分かれている)
2018年 キョン0.8反
2019年 ネズミ 0.2反
2019年 ヤマネ 0.5反

ウシの畑の下段以外は、作物の育ちが悪かったです。

キョンの畑で2018年の8月9月播きのアブラナ科が育たなかった様子をビデオで紹介しています。

2020年にもキョンの畑について考察しました。直播したアブラナ科が育たない。堆肥を使って苗を作ったものは育っている。
葉物の生育が本葉数枚で止まっちゃうキョンの畑のふしぎ

キョンの畑では、
1.直播のアブラナ科が育たない。特に赤リアスからし菜とルッコラは本葉1枚くらいで生育が止まる
2.10㎝のポットで育てた苗(こぶ高菜、キャベツなど)は育つ
3.大根は大きくないけど育つ
4.茶ノ木を燃やした場所はよく育つ
5.夏野菜のゴマ、ラッカセイ、さつまいもはよく育った

元お茶畑の土壌分析

2023年に、アライヘルメットの自然科学室の研究員の千徳さんが、菌根菌の調査にきてくれました。菌根菌については、別のブログに書きます。
菌根菌は、難溶性のミネラルを運ぶことができるので、土壌診断では可給態のイオンだけでなく難溶性の「リン、カリウム、石灰、苦土、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム」の値を調べてくれました。通常の土壌診断では可給態の情報だけしかわかりません。

元お茶畑で特徴的だったのが、次の2つです。
1.Phが低い
2.交換性石灰が低い

交換性石灰は250mg/100g~400mg/100gが適切といわれていますが、「ウシの畑下段」以外はとても低いです。特に千徳さんも驚いたのが「ネズミの畑」の10mg/100gです。こんなに交換生石灰が低いのは見たことがないそうです。

全量石灰に注目してください。
元お茶畑でも、「ウシの畑 下段」は野菜も雑草もよく育ちます。水が集まる畑で、周りの畑からミネラルが集まっているのではと推測しています。
それ以外は全量石灰の値が少ないです。ただし、ヤギの畑には2023年11月に炭酸カルシウムを1反あたり200㎏撒いたので他より多いです。

千徳さんが「アブラナ科は石灰で育つ」と教えてくれました。「土壌診断と対策 一般財団法人 日本土壌協会」にも、カルシウムを好む作物に「特にアブラナ科野菜はカルシウム要求量が高く、欠乏症の発生の事例が多い。アブラナ科野菜は、好石灰植物で、ほかの野菜に比べてカルシウム含量が多い。その中でもコマツナはカルシウム含量が高い」と書かれていました。

すなわち、元お茶畑ではアブラナ科が育たないのです。全量も少ないので、何も足さなければ自然栽培ではアブラナ科が育たないのです。

元お茶畑5か所の土壌分析

お茶畑ではpHが低く、カルシウムが少ない理由は、硫安にあり

「土壌診断と対策」という本に、硫安でpHが下がった研究が紹介されていました。

和歌山県農業試験場の研究で1976年から1996年までの20年の研究で、硫安をずっと施肥した区画と、有機物+硫安を施肥した区画でpHがどんどん落ちていました。7.2からスタートして20年で5.5くらいに。ちなみに、有機物+石灰窒素区はpH7.0を保持していました。

別の文献を見ると、お茶畑は窒素が大量に必要だそうです。窒素でお茶がおいしくなるそうです。そしてお茶はpHが低いほうがよく、ph5.0~5.5が最適だそうです。お茶畑には硫安を撒く場合が多いそうで、そうすると石灰が流亡します。

Phが5.5でも育つ作物は、
さつまいも、ショウガ、ニンニク、じゃがいも、ラッキョウ、ブルーベリー、そば、イタリアンライグラスなど。

適地適作にこだわり、さつまいもやじゃがいも主体で販売する方法があります。茨城県の干し芋で有名な「照沼勝一商店」さんが勉強会に参加されていて、pH5.5はさつまいもに最適とおっしゃっていました。病気が出ないと。

もし、pHがこれより高い作物を作りたいならば、次のどちらかが必要だと思います。
1.お茶畑は借りない
2.初期に石灰を含んだミネラル資材を投入する

やせ地でも育ちそうな大豆は、微酸性(6.0~6.5)のほうが最適だそうです。

自然栽培でも、はじめは有機栽培をしたほうがよい畑がある

2023年1月に開催された無肥料自然栽培勉強会で、「ミネラル不足」の話題になりました。土壌診断をしている自然栽培農家さんと研究者には、足りない元素が見えてきます。茨城の農家さん(慣行栽培10年のあと自然栽培20年)は、はじめの10年間は化学肥料だけをずっと与えていた畑で病害虫が増えたそうです。その土地では化学肥料を使う前は松葉を畑に投入していたそうです。有機物が少なすぎると考え、自家製堆肥を作って与えるようになり土がよくなったそうです。「腐植が十分なら虫は腐植を食べて作物は食べない」とおっしゃってました。

弘前大学名誉教授の杉山修一先生は、自然栽培の初期には、足りないものは補ったほうがいいのではと話していました。外部から有機物や堆肥を投入しないと窒素固定細菌など微生物が増えるまでに5年かかった研究結果があるそうです。また、自然栽培に成功している農家さんには、有機栽培から転換した農家さんが多いとも聞きました。

杉山修一先生も、次のように言っていました。
1.慣行栽培では、毎年施肥が必要
2.自然栽培では、有機物が十分でき、土壌炭素が十分になれば、窒素固定細菌など微生物が働き、窒素の自律的供給ができる

pHが低い場合は、窒素、りん、カリウム、いおう、カルシウム、マグネシウムが吸収しにくいそうです。
pHが低い畑は、炭酸カルシウムを追加したほうがいいとも聞きました。
または、堆肥を投入する方法(堆肥は有機物が圧縮されてミネラル豊富で腐植が多い)、天然由来のミネラル資材を投入する方法などもありました。

リンとカリは難溶性で土壌に十分あります。欠乏しやすいのはカルシウムです。日本では、雨が降ってもカルシウムが流亡してpHが低く酸性になりやすいです。
日本の土壌にはリンとカリが十分にあるから、ミネラル補給はしなくても大丈夫という記述を見つけました。でもカルシウムについての記述はありません。
うちの鶏は、カルシウム(かき殻)を与えなくても固い卵を産みます。それは、食事の草の中にカルシウムが含まれているからです。
植物堆肥の中にはカルシウムが十分含まれています。
腐植が多くpHが低くなければ、カルシウムが腐植に吸着するので流亡しなくなります。
初回のカルシウムが十分あれば、腐植が多くCECが高い圃場では、30年後もなくなることはないと思います。

無施肥無農薬自然栽培については、疑問は持ち続けたほうがいいと思います。
アブラナ科の自然栽培がうまくいっている、白菜やキャベツがよく育っている畑の履歴はどんなものか?とても興味があります。
牛糞の肥効が続いているのではないか?過去にたくさんの有機物を投入し続け、腐植が十分の畑ではないか?

新規就農者が借りられる畑は、水が多くて使いづらい畑、畑に行くまでの道がない畑、そしてpHが低くて作物が育たない畑が多いと思います。
まず、土壌診断をすることをお勧めします。はじめが肝心ということに10年たって気づくか?初年度に気づくか?大きな違いがあります。
10年間の試行錯誤も楽しいのですが。

「自然栽培は外部から持ち込んではいけない」と言われることがあります。
それならば、はじめの1、2年は有機栽培をしたらいいのではないでしょうか?
自然栽培を10年20年と続けるために、何が必要なのか?なぜ続けられない人が多いのか?
必要なものを初期に投入することは大切だと思います。

私はそれを自然栽培11年目にして知りました。
小島農園は、さつまいもやじゃがいも専門ではないです。
宅配という形で様々な作物を地元の人に直接配達したい。それが私の喜び。
アブラナ科も育てたい。
ミネラルバランスのいい土を作りたい。
だから、秩父産のの天然炭酸カルシウムを2つの元茶畑に投入してみることにしました。

足りなかった石灰だけ追加して、あとは緑肥と販売作物を作り、耕す回数をなるべく少なくして、有機物を増やし、腐植を増やし、土壌微生物を増やします。
小麦と緑肥で土づくりをしても、なかなか良くならなかった畑が、炭酸カルシウムによってどう変わるか?これから3年後10年後が楽しみです。

今、環境保全型農業直接交付金を申請していて、様々な書類を作っています。
慣行農法のあと2年経過した畑を環境保全型農業の対象の畑として申請できるそうです。
まず必要なミネラルや有機物をしっかり投入してから、2年後から自然栽培を名乗っても、いいのではと私は思います。

肥毒

「肥毒」という言葉を聞きます。自然農法の冊子と、自然栽培の作物を販売しているナチュラルハーモニーさんの文面で出会いました。

肥毒を抜かなければならない、化学肥料や畜産肥料を過剰に長年投与した畑があります。
牛糞は肥効が長く、緑肥を育てて持ち出してもなかなか抜けないと聞きます。
リン酸が過剰(150mg/100g~300mg/100g)な畑では、根が十分育たずに、鉄、銅、マンガンが不足した作物になるそうです。
リン酸は抜くのが大変と千徳さんがおっしゃっていました。17年たっても減らない畑があるそうです。

自然栽培は幅が広いです。
「何も入れてはいけない」に縛られず
作物が健やかに育つためには、何が必要なのか?作物の体の中で、根圏で何が起きているのか?本をたくさん読む、本当に面白いです。

新版 土壌学の基礎 松中照夫 農文協
新版 土壌診断と対策 一般財団法人 日本土壌協会

カテゴリー: 土作り, 栽培

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