「土・牛・微生物」を読んで環境再生型農業を始めようと思いました

アメリカの地質学者でワシントン大学地形学教授のデイビッド・モンゴメリー著「土・牛・微生物」を読了しました。英語版が2017年出版、日本語版は2018年出版の比較的新しい本です。

著者は、3部作の最後としてこの本を書きました。ほかに次の2作があります。
土の文明史ローマ帝国、マヤ文明を滅ぼし、米国、中国を衰退させる土の話 2010年」
土と内臓 微生物がつくる世界 2016年」

自然栽培を始めてずっと感じていた「夏や冬に畑を裸にさせないほうがいいのではないか?草がいっぱい生えているほうが気持ちがいい。」という感覚が、そして去年から「できるだけ耕さないほうが、地力が保たれている気がする」という感覚が、この本を読んでやっぱりそうかと納得できました。

犂、耕耘によって土が疲弊する

「土の文明史」で詳しく書かれているそうですが、古代文明は栄え、耕作によって土地が疲弊し、人を養えなくなり衰退したそうです。アメリカに入植した人たちが、過度な耕耘によってたった100年200年で、作物が育たない土にしてしまったこと。人類は「犂」を手にして、耕すことを覚え、生産力も高くなった。なぜ耕すことが悪いのか?

耕すことで、土の中にいる菌根菌が破壊されてしまいます。ほかの文献を見つけたのでリンクを張ります。
土壌炭素の修復:生物学はその役割を果たせるか?

団粒を1つにまとめる重要な糊の1つが「グロマリン」と呼ばれる糖たんぱく質である。グロマリンと土壌団粒の安定性は密接に関連しているとみられる(Nichols)。何名かの科学者らによれば、1996年に発見されたグロマリンは土壌中の炭素の27%を占め、条件次第で40年以上存続すると考えられている。グロマリンは、アーバスキュラー菌根菌が、植物の液体炭素滲出液を使って生成すると考えられている。菌糸体が根と土壌粒子を結合させ空間に橋を架けることを可能にする(Comis)。

有機物を投入して腐植を増やすことが団粒構造を作ると言われてきましたが、その糊を作っていたのが菌根菌だと発見されたのです。有機物を投入して耕耘を何度もするより、有機物で土を被覆して、菌根菌を活躍させるほうが団粒構造ができやすいということです。

耕耘を繰り返すと、土の中の有機物が分解され、単粒構造になってしまいます。単粒構造の土は、風で飛ばされやすく、雨は土にしみこまず、地表を流れ、土を浸食(流す)してしまいます。著書では、世界の各地の環境保全型農業の畑では黒い土が増え、隣の慣行農法の畑では土が赤く流出してしまっている例を挙げています。

環境再生型農業と3つの原則、複数の事例

著者は、土壌を回復させるための三原則を紹介しています。このどれが欠けてもうまくいかないそうです。
1.土壌のかく乱を最小限にすること
2.被覆作物を栽培するか作物残渣を残して土壌が常に覆われているようにする
3.多様な作物を輪作する

農林水産省の環境保全型農業とパタゴニアの環境再生型農業(リジェネラティブ農業)の違いの説明

著者は英語で”Conservation Agriculture”すなわち環境保全型農業という言葉を使っているようです。本の中では”Regenerative Agriculture” すなわち環境再生型農業という言葉も出ているようです。日本で農林水産省が提唱している「環境保全型農業」(後述)は著書の主張と違い、パタゴニアが提唱(後述)している「環境再生型農業」が近いです。引用部分は日本語訳のまま「環境保全型農業」になっていますが、意味的には「環境再生型農業」になります。

 犂にあえて疑問を唱えるのは異端のように思われるかもしれないが、それを使うことは確実にメジャーリーグ級の土壌かく乱なので。だから不耕起への移行が環境保全型農業の中心にある。不耕起栽培は収穫できない作物部位ー作物残渣ーを土壌の多いとして残す。これは、作物が収穫されたあと、トウモロコシの茎にしろ小麦の茎にしろ、植物の残額を取り除いたり焼いたりしないということだ。そういsたものは畑で分解し、地面に有機物のカーペットーマルチーを作る。土壌微生物のバイオマスは、不耕起農法へ転換するとすぐに増加する。土壌動物相もだ。マルチを施した区画には細菌、菌類、ミミズ、線虫の個体数が多くなる。一方、ひんぱんに耕すと土壌微生物のバイオマスが減少し、リンを植物に運ぶのを助ける菌根菌糸を阻害するなどの悪影響がある。
 商品作物の合間の季節に植えられ、次の植え付けの時に枯らされる被覆作物は、多年草の雑草を抑制し、腐養分を土壌に戻す役割を果たす。地面を覆うと地表のバイオマスと生物多様性が増し、特に害虫を抑える益虫が増える。輪作は害虫と植物の病原体の進出を防ぐのに役立つ。換金作物と被覆作物の順序を変化させる複雑な輪作は、害虫や病原菌に根を下ろす機会を与えず、それらのライフサイクルを断ち切る。これが今度は、旧来の農薬の使用量を減らすのに役立つ。
 土壌生物の活性と多様性が高まることの利益には、水の浸透量と土壌有機物の増加が挙げられる。これにより排水の質と土壌の構造が向上する。微生物の多様性が高い土壌は、病原体が根を下ろして生き続けるのが難しい場所でもある。これはつまり植物がより健康になるということだ。作物を病気が襲うことが減り、もし襲っても壊滅的なことにならない。輪作は微生物の多様性も高め、害虫や病原体が土壌生態系で優位になるリスクを下げる。環境保全型農業の三要素すべてを採用することで得られる最終的な効果は、収穫量の増加(何よりもまず最初の土壌の状態によって程度の差はあるが)と燃料、化学肥料、農薬の使用量の減少だ。環境保全型農業は旧来の耕起する栽培に比べて必要な労力も少ない。投入の費用が少なくなるので、農家にはかなりの倹約になる。

世界のいくつかの場所の事例があったので、興味のある部分を抜粋します。

ラッタン・ラル(インド人)ナイジェリアの国際熱帯農業研究所 1970年代~1987年、その後アメリカオハイオ州大学

当時の一般的な知識では、斜面の角度が第一に浸食を左右するとされていた。斜面が急になるほど速く浸食されるとだれものが思っていた。ラルのデータは、地面が耕した後のようにむき出しであるなら、斜面がたしかに主要な浸食の原動力であることを裏付けている。しかし、マルチで覆われていれば急斜面でも浸食されないことも、ラルは発見した。ラルの実験は、浸食にもっとも影響するのは、収穫後の畑にマルチを残すかどうかだということを示している。

オーストラリアと同様、伐採と耕起のもう一つの大きな影響は、むき出しの地面は太陽にさらされると温度が上がることだ。ナイジェリアでは、耕した畑の地温は、隣り合った林より二十℃以上高かった。しかし不耕起農法は、地温を林の土に近い温度に保ち、また多くの水も保持させていた。
ラルは衝撃を受けた。耕された畑で地温が三十二℃を超えると、土壌生物が活動を停止することは知っていた。そして生物の活動が止まれば、土壌構造が崩れ浸食が起きて、土壌肥沃度が低下する。もっともいいやり方は、どうやら、地面を覆っておいてミミズやシロアリに耕させることのようだ。しかしそのためには、生物にえさをやる必要がある。彼らの食べ物が有機物、すなわちマルチだ。

ハーバート・バーツ ブラジル南部 1971年~

バーツが不耕起栽培をはじめてから数十年、南米の科学者と農家は、今日われわれが環境保全型農業として知る農法をまとめ上げた。その評判は1990年代から高まりだし、現在、アルゼンチンとブラジル南部では不耕起栽培の採用が100%に届こうとしている。このため、深刻な浸食と土壌の劣化は南米一帯では大幅に軽減されている。(しかし、南米の不耕起農家で、環境保全型農業の三原則をすべて用いているものは半数に満たない。)

世界の不耕起栽培

少し本から離れて、世界の不耕起栽培のデータを紹介します。北米南米アメリカがほとんどだそうです。
不耕起栽培 – No-till farmingWikipedia site:nipponkaigi.net
アメリカ年、約21% 2017
アルゼンチン 80% 2014年
ブラジル 50% 2014年
パラグアイ 90% 2014年
ウルグアイ 82% 2014年
オーストラリア 57% 2008年

アジア、ヨーロッパ、アフリカでは少ないようです。

アフリカ ガーナ不耕起農業センター所長 コフィ・ボア (センターは2007年ごろ設立)

4.5エーカー+20エーカーの生産区画(1エーカー=約4000平方メートル)

熱帯では、土壌有機物はもともと非常に少ない。暑く湿った環境は、微生物による有機物の分解を促進する。ガーナの森林の土壌には最大4%の有機物があるが、ほとんどの農地には現在、最大で1%しかない(とボアはいう)

ボアの経験では、栄養獲得と放出のために被覆作物を栽培することを輪作の一環に組み込むと、土壌有機物の濃度を2年以内で1%から2%近くまで増やすことができる。数十年かけて畑の土の有機物を、森林のものより多い4%に増やすことができたと考えている。

渇水の時でも健康な作物を支えるために3つのことに気を配るように
1.種がまけるだけの穴を地面に空けるー土地のかく乱を最小限にする
2.種まきのときは地面が以前の作物残渣で必ず覆われているようにし、バイオマスと土壌有機物をふやすために被覆作物を利用する
3.輪作と混作で畑に多様性を与える

アメリカ ダコタ・レイクス試験農場の農場長 ドウェイン・ベック 1990年~

ケント・キンクラーになぜ牛を飼っていないのか尋ねると、彼はこう答えた。
「家畜がいないわけじゃない。顕微鏡でないと見えないんだ。」

不耕起農業は金にならないと主張するカンザスのエコノミストの団体を連れて、この地域の農場を見せても割ったときのことを話してくれた。ベックは多くを語る必要がなかった。不耕起の農場には新しい穀物貯蔵庫があった。観光農家にはなかった。エコノミストたちはベックの言わんとするところを理解した。

農民に研究結果をパワーポイントを使ってプレゼンテーションしてもうまくいかないことを、彼は知っていた。代わりに、数人を説得して自分のアイディアを試してもらい、またそのために不耕起栽培用に設計した機材の一部を提供して使わせることから始めた。すると、隣人がうまくやっているのを見たほかの農家が、それにならった。農家はほかの農家から口コミで情報を得るのを好むことを、ベックは知っていた。最初に採用した農家の収入が増えたとき、それは役に立った。

不耕起農法は土壌の有機物含有量を増やす。これは保水力に影響する。夏の土壌水分が作物収量に死活問題となる半乾燥気候のダコタでは極めて重要なものだ。有機物含有量が1%から3%に増えると、土壌の保水力が時には二倍になり、一方で浸水して土壌中の病原体が好む嫌気的な条件ができるのを防ぐのに役立つ。「有機物を化学肥料で置き換えることができると言われていた」とベックは学生に言った。「それは嘘だ」

集約放牧

輪作の途中で牧草を栽培して放牧をする例もありました。ただ放牧するのでなく、密集させること、1か所で年1回くらい草を食ませることがコツだそうです。

高い飼育密度で頻繁に輪換放牧を行うと、牛の摂食行動も変わった。広い放牧地を歩き回っていた時は、ウシたちはえり好みが激しく、好きな草を探してから食べた。こうするとあまり好ましくない植物が牧草地に残り、種をつける。一方、高い密度でほうぼくされると、食べ物のえり好みをせず、口の届くものは何でも仲間に食べられる前に食べた。いわば兄弟の多い家庭で育つようなもので、ぐずぐずしていると食卓にあるものはみんな食べられてしまう。放牧地では、これは雑草とあまり好ましくない牧草を取り除く役に立つ。すべて食べられてしまうと、草原に自生する栄養豊富な種類がすぐに回復する。

他にもいろいろ記載がありましたが、ウシを農業に取り込むの難しいなぁって思いました。

第12章 閉じられる円環 ー アジアの農業に学ぶ

1911年のフランクリン・H・キングの名著「東アジア4000年の永続農業」の紹介がありました。1909年に9か月アジアを旅行して、極東の農業が永続する秘密を探る壮大な旅をしたそうです。

 2月19日、灰色の空と荒れた海を見ること2週間以上のち、キング夫妻は横浜港に上陸した。翌朝二人は、下肥を畑へと運ぶ人、馬、ウシの途切れない流れを追い越しながら東京に向かった。男たちが、木の樽を六個から十個載せた荷車をひいている。きっちりと封をした樽の重さは、それぞれ二十五キロある。キングは通訳に、なぜ都市は汚水を川か下水に流して、排泄物を効率よく海に運んでしまわないのかとと尋ねた。通訳は答えた。こんな貴重な資材を捨ててしまうのはもったいない。毎年、日本の農家は耕地一エーカーあたり平均二トンをまいている。
 アジアの農地に戻される有機物は、人間の排泄物だけではない。ある果樹園を訪れた際、稲わらのマルチがかけられ、木の間に雑草が生えていないことにキングは気づいた。日本の農家は、わらを野菜畑のマルチにも使っていた。わらは土の上に重ねられ、少量の土をかぶせて水が早く浸透するように、また土壌表層からの蒸発を減らして水が地面に保持されるy9おうにする。分解されると、マルチは堆肥としても働く。堆肥とマルチは日本の農業の基礎であった。
 日本人が畑に戻す窒素、リン、カリウムの量を推定したキングは、作物にとられたのと同じ量を足していることを知った。彼らは輪を閉じて、栄養を土から作物へ、それから人へ、そして再び土へと循環させていた。ここに数千年にわたり農業を維持するカギがあるのだ。

江戸時代に書かれて有名な「農業全書」も確認してみましたが、どの野菜にも下肥や尿を使うことが書かれていました。人口が増えた江戸時代に必要なことだったのでしょうか。

他にも、いくつか論点があったのですが、私の畑で実践したいことはここまででほとんどです。

あ、有機物で常に地表が覆われて、草が生え、土壌微生物が豊かな畑は、大気の二酸化炭素を土中に固定する働きが大きいそうです。二酸化炭素を使う量を減らすとともに、デイビッド・モントゴメリーの提唱する3原則を守った環境再生型農業を推進すると効果的です。

環境再生型農業をやってみたい

2020年に借りることになった7反の畑があります。今、3反に小麦をまきました。残り4反は、茶の木栽培の後、茶を粉砕してからずっと草刈りだけ続けられていた畑です。ここで、環境再生型農業を取り組んでみたいと思います。できるだけ耕起せず、様々なものを混作して、小麦、大豆だけでない複雑な輪作を取り入れる。常に土が有機物で覆われていることが望ましい。

想像するだけでワクワクします。土がどう変わっていくのか?土壌の調査も並行してやっていければと思います。

列挙した世界の先輩農家の成功例のように、自分が環境再生型農業の拠点となれたら、そこからじわじわとまねしてくれる人が増えるかもしれない。まずは、続けていろいろ試して、飯能で合う方法を模索していきます。

環境再生型農業を取り組む予定のキジの畑

環境再生型農業を取り組む予定のキジの畑

日本の環境保全型農業は少し違う

日本では、環境保全型農業直接支払制度という制度があります。平成23年から始まったそうです。

その前に次の検討会があったようです。熊澤喜久雄 東京大学名誉教授が座長。
「今後の環境保全型農業に関する検討会」 報告書 平成20年3月

農林水産省 環境保全型農業直接支払交付金

農水省 環境保全型農業直接⽀払交付⾦について 令和2年10月

地球温暖化防⽌に効果の⾼い営農活動(有機農業、堆肥の施⽤、カバークロップ、リビングマルチ、草⽣栽培、⻑期中⼲、秋耕)に対して、お金を支払う。
(ただし、カバークロップやリビングマルチは、種の購入の領収書が必要だそうで、もらえるお金も種代相当だと思いました。)

デイビッド・モントゴメリーが、アメリカでは環境保全型農業に対しての補助金はないと言っていたから、日本では検討され実施されているだけでもすごいことだと思います。

著者が何度も書いていたのですが、不耕起栽培、輪作、被覆作物、3原則に取り組むと、慣行農家でも肥料がいらないことに気づき減らすことになり、除草剤もいらなくなってくるそうです。生物多様性が高まると農薬もいらなくなってくる。そして収量は増える。これからいろいろ実験するのが楽しみです。

無肥料自然栽培勉強会のように、興味がある人と一緒に研究をするのも面白そうです。

リジェネラティブ農業 環境再生型農業

農林水産省の環境保全型農業は上述の定義になってしまっています。北海道の自然栽培の先輩の上田桃子さんから「リジェネラティブ農業」というキーワードをもらいました。調べてみると、デービッド・モントゴメリー環境保全型農業の三原則が含まれています。

リジェネラティブ農業とは・意味

不耕起栽培
被覆作物の活用
輪作
合成肥料の不使用

パタゴニアが挑む「リジェネラティブ・オーガニック」 農業を問題の一部から解決の一部へ

アウトドア企業「patagonia(パタゴニア)」は、気候変動を阻止するための取り組みであるリジェネラティブ・オーガニック(RO)を紹介するキャンペーンを7月30日から始めた。2017年にはRO認証制度設定を支援、ROのマンゴーやコットンの栽培に取り組み、商品を展開している。

パタゴニアの取り組みが2017年開始、著書も2017年出版、著書に影響を受けての取り組みではないでしょうか。
環境再生型農業(リジェネラティブ農業)を私は実践していきたいと思います。

カテゴリー: リジェネレイティブ有機農業

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